にほんご練習帳

思ったことや感じたことを文章に表現する訓練のためやってます。できるだけ毎日続けようと思ってます。

読書感想文「身の上話」(佐藤正午 著)

佐藤正午さんの本は「ジャンプ」以来2作目ですが、読むと(というより読んでいる最中ずっと)、どこか違う星の物語を読んでいるような、不思議な感覚にとらわれます。


舞台はまぎれもなく現代ですし、人物像もリアルな現代人として描かれています。
だけど、明らかに自分の住む世界とは違う時間が流れているように感じられます。


本作も、ストーリーからすると現実にはまず「ありえないこと」です。
現代小説ではよく「ありえないこと」を「ありえるように」苦心して書かれており、読んでいて突っ込みをいれたくなるものがよくあります。

けれどこの小説では「ありえないこと」を「ありえないふうに」書いています。語り手が主人公の夫であり、妻
から聞かされた話を語る、というスタイルであることから受ける印象でしょう。
ところがその手法が、何か現実離れをしているストーリーを違和感なく届けてくれます。そして気づけば予想外の展開に振り回され、ページを繰る手がとまらなくなっています。


その怒涛の展開は、例えるなら、のどかな春の雪山で、ちょっとしたはずみで木の枝から落ちた小さな雪の塊が転がり始め、転がるうちにだんだん大きくなり、ついには巨大な大雪崩となっていろんなものを飲み込み大惨事。という感じです。

序盤が「ゆるやかな坂」なら、終盤は「断崖絶壁の崖」を転落していくような凄まじさです。


まだ2作しか経験していませんが、佐藤正午さん、ストーリーのアイディアとそれを表現するテクニック、どちらも兼ね備えた超一級の小説職人です。


単なるミステリーの枠にとどまらず、あの手この手で読者を楽しませる仕事っぷりは、東野圭吾さんにも通じるものを感じました。