今は読みかけのマンガやドラマなどお気に入りの作品が多く、ぼくの余暇を奪い合っている状況なのだけど、そこにいきなり割って入り、すべての時間を独占した。
図書館で気長に予約待ちをしていたところ順番がまわってきたので、期限もあることだし、と冒頭を読み始めたのだが、最初の数ページで心つかまれてしまった。
ことさら過剰な描写をしているわけではないのに、静けさのなかに、何かが起きそうなヒリヒリした緊張感。ジャンルは少し異なるけれど、東野圭吾の傑作「白夜行」に感じたものに似ている。そしてその空気感がぼくは大好きなのだ。
型破りな警察官・大上と、その部下となる新米の日岡を中心にストーリーは進む。服務規程違反などおかまいなしに自己流のやり方で暴力団を仕切って行く大上。日岡はそんな大上に反発を感じながらも、その人間的魅力と、何よりも「結果」を出す実力を目の当たりにして徐々に信頼を寄せていく。
世の中、白黒はっきりつけられることなんてない。正しいとされていることと間違っていること、その境界は驚くほどあいまいだったりする。ふだん必死に生きていく中で誰もが感じていることだ。最後に拠り所となるのは自分の価値観、それしかない。
巨大な警察組織の中でもがく大上や日岡に果てしなく共感できるのは、そんな己の「価値観」を信じ貫いていく「覚悟」に惚れ、憧れを感じるからだろう。
自分の中に眠る何かが揺さぶられる。なかなか感じられることではないけれど、これこそが読書の醍醐味。そう思わせてくれる一冊だった。