にほんご練習帳

思ったことや感じたことを文章に表現する訓練のためやってます。できるだけ毎日続けようと思ってます。

読書感想文「じっと手を見る」(窪美澄 著)

たまにビルの高層階から地上を見下ろすと、アリよりも小さく見える無数の人が行き交っている。そんな風景を見ていると、ふと「あの一人ひとりがそれぞれの人生を主役として生きているんだな」となんだか不思議な感慨に浸ることがある。

 

この作品は主に4人の登場人物の視点で描かれている。それぞれが、世間一般的には特別ではないありふれた毎日を送る「ふつうの人」だ。でも一人ひとりの視点に立ったとき、他の誰とも同じではない恋があり、悩みを抱え、毎日を生きている。


この小説は「面白い」というのとはちょっと違うし、ストーリー展開にわくわくするわけでもない。それでもページをめくる手が止まらないのは、街でふとすれ違う知らない人の人生を覗き込んだような、ある種の「生々しさ」の魅力にとりつかれてしまうからだ。そしてそこに描かれる身勝手さや傲慢さ、心の底にある寂しさや優しさ、そのどれもが自分の中にも確かに存在することに気づかされる。さりげないようでいて何にも似ていない、そんな小説だった。