にほんご練習帳

思ったことや感じたことを文章に表現する訓練のためやってます。できるだけ毎日続けようと思ってます。

読書感想文「親鸞」(五木寛之 著)

読書というのはどこまでも能動的な行為だと思う。テレビや映画は黙って見ているだけで始まり、やがて終わりを迎えるけれど、本は自分の脳が理解し消化してくれない限り、一行たりとも前に進むことはない。ページ数の多少にかかわらず、そのときの心が欲するタイミングでなければ完読するのは至難の業だ。


この「親鸞」は過去に何度か興味をもったものの、手に取るまでには気持ちが乗らなかった。でもこの数か月の間に重なったできごとによって、ぼくが読書に求める効果効能みたいなものに少し変化があった。それまではストーリー展開の鮮やかさとか、ワクワク・ドキドキするとかそんなことだったのだけど、最近は心に平穏をくれたり、もっとはっきり言うと、「死」と向き合い、それを優しく肯定してくれるような物語を求めていた。


それでまずは、自宅の本棚にある手塚治虫の「ブッダ」を読み、次に関心が向いたのがこの作品ということになった。


3部6冊にわたり親鸞の生涯を描いた大作だけど、文章がひたすらに読み易いのと、随所に展開の盛り上がりがあり、どんどん読み進めることができた。


著者のあとがきにも、伝記ではなく事実をもとにした創作と書いてある通りエンタメ性の高い作品だけれど、やはり全体を通して描かれる親鸞の哲学はじわりと沁み入ってくる。


彼が友から贈られ、いつも懐にいれて大切にしていた石つぶて。自分が驕り謙虚な気持ちを忘れそうになったときに「人はみな河原の石ころみたいなもの」と思い返す。その「人はしょせん石ころ」は、同時にぼくには「難しいことを考えすぎず、気楽に生きよう」というメッセージにも思えた。また、ひとりの人間として、私欲をもち煩悩に生きる凡夫である自身を受け入れる彼の姿からは、自分を「ゆるす」ことが人生において必要であることを感じた。もちろんぼくは自分に甘くゆるしてばかりなのだけど、それでもいいんだよと言ってもらえた気がした。


このタイミングで巡り合った親鸞。これから少しずつでも、もっと彼の人生を、そして思想を知ってきたいと純粋に思わせてくれる素晴らしい入門書であると思った。