自分の伝えたいことがあるとき、どうすれば印象深く伝わるかを考える。強調の仕方やグラフの見せ方を工夫することもある。ぼくも企画書を作るときはよくやる。
そして強調するための「工夫」の一つに「言わない」というものがある。「言わない」ことは嘘ではない。でも見る人は「無い」ととらえる。あえて誤解を促すというわけだ。これはあまり褒められる手口ではないと思う。
なぜこんなことを書こうと思ったかというと、今日見かけた画像の内容が気になったからだ。
日本中の注目を集めた夏の高校野球決勝。私立の強豪で春夏連覇を目指す大阪桐蔭に対するは、秋田の公立高校金足農業。あまりにもわかりやすい図式だ。そんな2校の戦力が違いすぎることを示して話題になって広がったのが、その画像である。
両校の選手の経歴が書かれている。
金足農業は一人が「○○シニア出身」、あとは数名が「中学軟式」と書かれただけで大半は空白である。
一方で大阪桐蔭は多くが「日本代表」や「中学日本一」などだ。そして全員が何らかのコメントで埋まっている。
差があるのは間違いない。でも、これはやはり情報の伝え方としてフェアじゃないと思う。
金足は多くが空白になっているが、これは無名選手だから「不明」ということだと思うけれど、それをあえて空白にしていると推測される。つまり書かないことで「未経験者」と誤解させようとしているのではないだろうか。(別のサイトでは、ほとんどが中学軟式の経験者と書かれていた。これも事実かはわからないが、普通に考えて、選手の大半が高校まで未経験者ということはないだろう)
また、大阪桐蔭には「高校No.1捕手」「北海道No.1野手」「○○シニア4番」なんていう選手もいる。もちろんこれだってすごいけれど、やはりフェアじゃない。「日本代表」を書くのはわかる。それは客観的事実だから。でも「No.1」はそうじゃない。大阪桐蔭の方は、書くべき事実が見つからない選手については、空白にせず、こうした「主観的」な情報で埋めているのだ。さらに大阪桐蔭の選手は「○○シニア4番」で、金足農業は「○○シニア出身」だ。ここも意図的に書き分けていると思える。
決して「嘘」は書いていないし、決勝戦の事前情報としては、戦力差があればあるほど面白いのもわかる。ぼく自身、長々と細かい指摘をしてつまらないことを書いている自覚もある。
でも大阪桐蔭も金足農業も、ここまできたのは選手一人ひとりの努力の結果だ。どちらも素晴らしい戦いで勝ち上がってきた。決勝に進むにふさわしい両チームを称え、純粋に頂上決戦を楽しみたいのだ。しかしこの画像を見ればきっと多くの人が「金足を応援しよう」となるだろう。選手たちには何の罪もない戦力差を取り上げ、「事実以上」に強調し一方への肩入れを促すのは、どちらのチームに対してもリスペクトが欠けているように感じた。
結果は一方的になったけれど、素晴らしい試合だった。大会を通して久しぶりに高校野球の面白さを思い出させてくれた両チームに感謝の気持ちしかない。