にほんご練習帳

思ったことや感じたことを文章に表現する訓練のためやってます。できるだけ毎日続けようと思ってます。

じゃあ、スーパードライのCMはどうすればよかったのか

ちょっと前の話になるが、 ラグビーワールドカップで日本代表が敗れた直後に、 アサヒビールが「敗退バージョン」のテレビCMを流したことが物 議をかもした。僕もテレビ中継を見ていたので、 リアルタイムでこのCMを目にして「これはないな」 という印象をもったことをよく覚えている。

 

21年の東京オリンピックのときにコカ・コーラが、 テレビ中継でメダル獲得があった直後に綾瀬はるかが出演する「 おめでとうCM」を流したことが話題になった。 このときも賛否両論あったみたいだけれど、 基本的には視聴者も明るい気持ちで観ているタイミングなので、 ネガティブな声はそこまで大きくなかったと記憶している。

 

今回もアサヒビールとしては、 同じノリで勝利と敗退両方のパターンで用意していたのだろうけれ ど、敗退バージョンは思いのほか反発を招いてしまった、 ということなのだろう。

 

あのCMが失敗だったことは疑いがないし、 その理由も語るまでもない気がする。 そこでちょっと考えてみたいと思ったのは「どんなCMなら正解だ ったのか」ということだ。

もちろん、負けた場合には通常のスーパードライのCMを流してお けば無難なのだろうが、その結論はちょっと面白くない。 クリエイティビティを刺激する訓練として、あの場面で「 視聴者に受け入れられる敗退バージョン」のCMとはどんなものな のか、考えてみたいと思った。

 

大きなポイントのひとつに「さも一緒に見ていたかのような演技」 があると思う。この場合の「演技」はイコール「嘘」である。 勝敗どちらのパターンにしても、 これほど明白な嘘を堂々と見せられると、 反発を覚えるのも当然という気がする。

 

それから個人的にあのCMを残念に感じたポイントの1つに、 イチローが出演していたということがある。 日本人アスリートの象徴ともいえる存在のイチローが、 命懸けで戦い敗れたラグビー日本代表に対して、嘘の演技で労う、 という構図が受け入れがたいと感じた。イチローには、 そんな仕事は断ってほしかったと思った。

 

であるなら、あくまでも「イチローらしいリアルさ」で労うCMだ ったらどうだろう。

たとえば生コマーシャル。 リアルタイムで観戦していたイチローが、 その瞬間に思いを発する。そうすれば、同じ「残念!」でも、 はるかに視聴者の気持ちに寄り添うものになった気がする。

 

どうしても事前収録が避けられないのであれば「 アスリートの先輩」として語っていたらどうだろうか。

「同じアスリートとして、 負けたときにかけられる言葉なんてない」「 今はとても乾杯の気分じゃないかもしれないけど、 長い人生においては、負けも大きな糧になる」 というようなメッセージを語る。アサヒビールのCMでありながら 乾杯もビールもなし。そんな潔く振り切ったものであれば、 受け入れられたかもしれない。

 

なんてあれこれ考えてみたけれど、やはりベストは「やらない」 なんだろうなと思う。

スポーツ中継の一番の醍醐味は、 世界中の誰も結末を知らないストーリーをリアルタイムで目撃することにある。勝つにしても負けるにしても、その尊い「 結末の瞬間」において、「商売のチャンス」 をうかがう下心は絶対的に相容れないのだと思う。

 

スポーツイベントのスポンサーになる企業には、 そのあたりをわきまえた度量の大きさをもっていてほしいと願う。