にほんご練習帳

思ったことや感じたことを文章に表現する訓練のためやってます。できるだけ毎日続けようと思ってます。

読書感想文「黒牢城」(2021年 米澤穂信)

米澤穂信の小説はこれが初めてだったけれど、 まず文体が好みだったからのめり込んで面白く読めた。

実はこの前に、別の著者で、 こちらもとても評判が良い時代小説を読んでいたのだけど、 合わなくて途中で挫折していた。

ぼくはどちらかというと抑制がきいたというか、 感情表現が露わではない文章が好きだ。

演技に例えるなら、泣かずに泣かせるというか。

「感動させよう」「泣かせよう」 みたいな作者の意図が透けて感じられてしまうと、 とたんに醒めてしまい、 それ以上読み進める気がなくなってしまう。

まあ、ひねくれものなんでしょうね。

 

黒牢城は、 そんな僕が余計な勘ぐりをするスキもない磨きこまれた文章と、 緻密なストーリーが調和した作品だった。

荒木村重、 そして黒田官兵衛という実在の登場人物と史実をベースにした「 ミステリー」という枠組みに入るものらしいのだけど、

城内で巻き起こる事件と深まる謎をめぐって、 村重と官兵衛の駆け引きや、 村重の家臣に対する信頼と疑念の狭間でゆれる胸中、 そして下されるいくつかの決断など、「人」 を描いた文学作品としての読み応え、重みが感じられた。

 

言葉や情景から炙り出されるような絶妙の心理描写に、 常にヒリヒリとした緊張感を感じながら読み進め、

解き明かされる謎と、 辿り着く結末の見事さに読書を堪能した満足感があった。

 

もうひとつ面白く感じたのは、読んだ後にamazonのレビュー を見たときのこと。

もちろん圧倒的に高評価が多いのだけれど、中には「 史実の結末から逆算してこじつけただけ」 というような感想があった。

また、著者の過去の名作と比べて「色」 が異なることを残念がる人も。

 

当たり前のことだけれど、同じ作品を読んでも、 それまでの知識やバックグラウンドによって

受け止め方は様々に変わるんだなあと。

 

ぼくは米澤さんの本も初めてなら、 村重のことも官兵衛のこともよく知らず、 したがって元になる史実も知らないまま読んでおり

つまり何の事前情報もない状態だったのだけど、

もしかすると、そんな人が一番楽しめる作品なのかもしれない。

 

これほど完成度の高い黒牢城でも米澤ファンからは「残念」 という声が出るほどだから、過去の作品はどんなだろう。 今後の楽しみとなる作家が一人増えて嬉しい。